今年もシランがテラスの片隅で群れをなして咲き競っている。95才で亡くなった
アメリカ人女性、イブリンの形見の花である。
サンフランシスコ生まれの彼女は戦前、ひとりの日本人女性と出会った。名前は
ヨシコ。やがて戦争が始まり、彼女が日本のどこかから持ち込んだ、この野生の
蘭はイブリンに託された。以来、彼女たちが再び会うことはなかった。ヨシコが戦後、
収容所に入れられたことをイブリンは、だいぶ後になってから知ったそうだ。やがて
シランはイブリンとともにニューヨークへ移り、1970年、彼女が60才のときに
ポルトガルにやってきた。そして今、日本人である私の元で咲き続けている。