私が水墨画を学んだきっかけは、歌舞伎座に飾られた小林古径の「犬 庭の一隅」と
題された日本画である。百合や昼顔の咲く叢で二匹の犬が戯れている。芝居はともあ
れ、この絵を見るために、私は歌舞伎座に通っているといっても過言ではない。
いつかこんな絵が描きたい……しかし、続ければ続けるほど、その夢は遠のいていく気が
していた。その背中を押したのが、金髪の姉妹弟子、ドリーンとイザベルだった。
「どうして、描かないの?」 二人は実に不思議そうに尋ねたのである。いつか……なんて言葉は、彼女たちには存在しない。
こうして、50×60㌢もある、始めての大作に挑んだのであった。
モデルはドリーンの愛犬、チボーである。